ご挨拶

「新しさ」とは何か
― 保育におけるブリコラージュの視点 ―

日本保育学会第72回大会は、「『新しさ』とは何か―保育におけるブリコラージュの視点―」をテーマに、関東ブロックの主催で、大妻女子大学千代田キャンパスを会場にして2019年5月4日(土)・5日(日)の両日開催されます。

ところで、大妻女子大学での前回の開催は2005年(平成17年)。実に14年ぶりの開催となります。14年前のテーマは「こどもを原点に―保育実践研究の再構築」でした。大会実行委員長であった故大場幸夫氏は、このテーマを設定するにあたり次のように述べています。

こどもたちの生きている現代とはどのような時代なのかを考える機会にしたい…(そこで)グローバリズムとローカリズムという大きな思潮に着目して、思索する時空を設定するように努めます。そのために、人びとの生きる現実に身近に接しつつ、その現場に深くかかわる立ち位置からの問いかけに、耳を傾けることのできるように…

10年以上の歳月を経て、今、「新制度」「新要領」「新指針」、公定価格制度における「質改善加算」と結び付けられた「キャリアアップ研修」制度の創設、さらには「第三者評価加算」「関係者評価加算」等、幼児教育振興法を見据えての動きであろうとも捉えられる、独立行政法人国立教育政策研究所による「評価指標の開発」等々、「新しさ」を巡る諸言説、諸施策、諸制度等が大きな流れとなって動いています。

保育の質の向上、とりわけ保育の質の「担保」に対し、こうした動きは非常に重要な意味を持ちます。ただ一方で、質の向上を志向する個々の現場は、それぞれに多様な実態(地域〔含.基礎自治体等行政機関〕、家庭・家族の状況、経験知も特性も異なる保育者、そして一人一人個性を有するこども)の中で営みを生起させています。畢竟、そのそれぞれが、そのそれぞれの多様性に基づいた必然性から質の「向上」を図っていかなければなりません。

「新しさ」を志向する営みが、エンジニアリング的でシステマティックな営みへと収斂された時、その先にあるのは、「金太郎飴」のような営み、紋切り型で画一的な取り組みへと堕すことの危険性が、絶えず孕まれていることを忘れるわけにはいかないのではないでしょうか。

例えば、業務の軽減、質の標準化を志向し沢山の財源が投下されているICTに関する施策。何を書くのかを具体的に明示する(チェックリスト等もここに入る)ことは、個々の保育者の力量に左右されることなく一定程度の質を担保し、またそれは書き易さにも繋がるでしょう。あるいは、そうした記載内容を、関連する(であろうと想定した)諸記録に自動的に連動させることは、業務軽減に繋がるものだと考えることも十分理解できることです。しかし一方で、連絡帳の記載一つとっても、それは保護者とのコミュニケーションツールとして機能するのみならず、その記載内容の工夫のさせ方によっては個別記録の基礎資料として日々の日誌に連動させることが可能です。さらには、その作成過程や諸記録間での連動のさせ方を試行錯誤すること自体の中に、人材育成のツールとしての機能を含ませることも実際に行われていることも目にします。ただし、いずれもこうした可能性への志向は、それぞれ個々の現実に即応して多様なリソースを試行的に使用し、組み合わせるといった挑戦的な営み、あるいは「遊び」にもなぞらえるような創造的な営みのもとで機能しており、まさにそうした多様な現実の中での取り組みこそが、質の向上のしくみや実際を生み出す内実となっているのではないでしょうか。

今回の大会テーマの副題に「ブリコラージュ」を添えたのはこうした意味が込められています。見方を換えれば14年のときを経て、今、改めて、「こどもの・保育者の・保護者の・人びとの生きる現実」に目を向け、多様性の原則やその豊かさに目を向けた上で「新しさ」とは何か、質の向上とは何か、を思索する場として本大会を実施したいと思っております。

会員の皆様のご参加、ご発表を心よりお待ち申しあげます。

第72回大会実行委員長 大妻女子大学 岡 健